2016年の謎

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先日の記事で、「2013年〜2016年にテレビの平均使用年数が急落した理由」を後日解説するとした。

大まかな調査は終えていたので、あとは細かく調べて記事にするだけだと考えていたのだが、厄介な壁にぶち当たっている。

2013年〜2015年については、問題なく説明できるのだが、2016年だけは説明がつかないのだ。

平均使用年数と買い替えの理由

以下のグラフは、内閣府が提供している1992年から2023年までの主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)を集計にして、買い替え前のテレビの平均使用年数の推移を示したものだ。

下表は平均使用年数の値を抜き出したものだが、2013年〜2016年までは他の年と比較すると明らかに低下していることが確認できる。

平均使用年数
2013年7.9年
2014年6.3年
2015年7.4年
2016年8.0年

下表は、内閣府が提供している主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)を元にして、1992年から2023年までのカラーテレビの買い換え理由を集計したものだ。

2005年頃から「故障」による買い替えが減少し、2013年から増加に転じている。

買い替え理由が「故障」である割合が50%を下回った場合、「故障」以外の要因であるとして、その理由を解説するつもりだったが、当てはまるのは2010年から2015年までだけで、2016年は57.4%と50%を上回っていることが分かった。

更に、1992年から2023年までの「故障」による買い替えの平均値である63%を使用して、それを下回れば「故障」以外の要因だとしようとしたが、2016年も当てはまるものの、今度は2019年や2021年まで対象に含まれてしまうことが分かった。

残念ながら、2019年や2021年に「故障」が少なかったことを説明可能な材料までは見つけられていないし、1〜2%の違いなので説明も苦しい。2016年には5%以上の差があるので、それをもって2019年と2021年を除外しても良いのだが、なにか引っ掛かる。

2016年に特殊な要因があると疑って確認すべきかもしれないと考えた。

購入した年の確認

2013年から2016年の平均使用年数、その年数から購入した年を割り出し、一覧にしてみた。もしも「故障・劣化による寿命」を迎えたテレビが急激に増加したならば、特定の時期に購入されたテレビに故障が頻発したこととなるはずだからだ。使用しているのは平均使用年数なので、実際の時期にはバラツキは出るはずだが、特定の年に集中するならば、その年に何かがあったと考えられるかもしれない。

結果は以下の通り。2005年から2008年までとなり、特定の年に集中はしなかった。

買い替えした年平均使用年数購入した年
2013年7.9年2005年
2014年6.3年2007年
2015年7.4年2007年
2016年8.0年2008年

この情報だけでは説明ができないので、2016年の8年前、2008年前後に特別な変化が見られないかを確認することにした。

2008年前後の状況

以下のグラフは、民生用電子機器国内出荷統計(外部リンク)で提供されているテレビの国内出荷実績数を集計したものだ。

ブラウン管テレビの出荷台数が風前の灯火といった状況にあることが分かる。だとすると、2016年に処分されたブラウン管テレビの大半は8年以上使用されていることになるので、平均使用年数を8年以下に引き下げる要因には成りえない。液晶・プラズマが平均使用年数を引き下げている可能性が高いのだ。つまり、8年よりも短いということになる。

だが、液晶・プラズマテレビの寿命を8年以下だとしてしまうと、翌年以降の平均使用年数の説明がつかない。以下の一覧は2021年までの平均使用年数を示したものだ。2017年以降、平均使用年数が8年を下回る年はない。

買い替えした年平均使用年数購入した年
2013年7.9年2005年
2014年6.3年2007年
2015年7.4年2007年
2016年8.0年2008年
2017年9.3年2007年
2018年9.5年2008年
2019年9.7年2009年
2020年9.7年2010年
2021年10年2011年
2022年10.4年2011年
2023年10.7年2012年

何かがおかしい。

本当の理由

もしかすると、2008年前後に大量の不良品が出荷されたのかも知れないと考えて調べてみたが、それらしき情報は見つからない。

2011年3月に起きた東日本大震災の影響も考えてみた。地震の被害でテレビが壊れてしまった場合、「故障」を理由に選ぶだろうか、それとも「その他」を選ぶだろうかと。

以前調べたCCFLのことも頭に浮かんだ。CCFLの寿命が実際には短かったのかも知れないと。

だが、先程のグラフをもう一度見直してみて、理由は別にあることが分かった。

2009年から2011年の液晶・プラズマの出荷実績に注目して欲しい。2011年7月の地上デジタル放送開始に向けて、需要が急増していることが分かる。この3年間は母数が多いのだ。

以下の表は、2003-2005年、2006-2008年、2009-2011年の出荷実績を集計し、仮に2003-2005年の出荷総数と同数が処分された場合の処分率を示したものだ。

期間出荷実績(単位:千台)処分台数(仮定)処分率
2006-2008年21,69617,31980%
2009-2011年58,64817,31930%
2012-2014年17,31917,319100%

2009-2011年に購入された液晶・プラズマテレビが2016年に処分された場合、使用年数は5〜7年だ。8年を下回るので、これは平均使用年数を短くする。

仮に2009-2011年に購入された液晶・プラズマテレビの30%が2016年に処分された場合、2006-2008年に購入された80%、2012-2014年に購入された100%の台数に当たるため、2009-2011年に出荷された製品の平均使用年数に与える影響が大きい。

一部の製品しか処分されない(故障率が低い)時期は、2009-2011年からの経過年数に平均使用年数は近づくことになりそうだが、実際にはそうなっていない。これは、ブラウン管テレビの影響によるものだ。

以下のグラフは、環境省が発表している家電リサイクル実績数(外部リンク)を機種別に集計したものだ。

2016年に液晶・プラズマテレビが過半数を占めるようになるまで、リサイクルで処分されていた対象の大半はブラウン管だ。ブラウン管テレビの大半は長期間使用されていたはずなので、2009-2011年からの経過年数に平均使用年数が極端に近づくことはなかったのだと思われる。

以上を「2016年の故障比率が高くても、平均使用年数が長くならなかった要因」の説明とする。

推測

2016年の平均使用年数の低下は、2009〜2011年に液晶・プラズマテレビが大量に出荷されたことで、短期(5〜7年)で故障したテレビの総数が押し上げられたことによる影響だと考えられる。

2016年の故障率増加についても、同様の理由によるものだと考えられる。

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