先日の記事で、2013〜2016年の平均使用年数が急激に低下していたことを記しました。
このような減少が起きるには、何らかの理由があるはずです。
「故障・劣化による寿命」を迎えたテレビが急激に増加したか、「故障・劣化以外の寿命」を迎えたテレビが増加したか、これら2種類の寿命について、それぞれ検証してみたいと思います。
故障・劣化による寿命なのか?
以下のグラフは、内閣府が提供している1992〜2023年までの主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)を集計して、買い替え前のテレビの平均使用年数の推移を示したものです。
2013〜2016年の平均使用年数、その年数から割り出した購入した年を一覧にしてみました。もしも「故障・劣化による寿命」を迎えたテレビが急激に増加したならば、特定の時期に購入されたテレビに故障が頻発したこととなります。
買い替えた年 | 平均使用年数 | 購入した年 |
2013 | 7.9 | 2005 |
2014 | 6.3 | 2007 |
2015 | 7.4 | 2007 |
2016 | 8 | 2008 |
実際には、平均値よりも短い期間や長い期間での買い替えが発生するので、ここから特定年の故障率が高かったとすることはできませんが、2005〜2008年の製品に何らかの理由があったという前提で考えてみましょう。
以下の表は、JEITAの公開している民生用電子機器国内出荷統計(外部リンク)を元にした、2005〜2008年の出荷実績です。薄型(液晶・プラズマ)とブラウン管のテレビに分けて集計しています。
出荷された年 | 薄型(液晶・プラズマ) | ブラウン管 |
2005 | 4,217 | 3,982 |
2006 | 5,595 | 1,856 |
2007 | 7,411 | 625 |
2008 | 8,633 | 183 |
4年間の合計 | 25,856 | 6,646 |
以下の表は、環境省が発表している家電リサイクル実績数(外部リンク)をを元にした、2013〜2016年の期間にリサイクル処分されたテレビ台数です。
処分された年 | 薄型(液晶・プラズマ) | ブラウン管 |
2013 | 700 | 2,040 |
2014 | 850 | 1,870 |
2015 | 1,030 | 1,550 |
2016 | 1,280 | 1,180 |
4年間の合計 | 3,860 | 6,640 |
4年間の合計を較べてみると、ブラウン管の台数は出荷数と処分数がほぼ一致しますが、薄型テレビの処分数386万台は、出荷数である2585万台の15%程度です。
ブラウン管は2004年以前にも販売されていますし、減少傾向にあったとしても2009年までは販売実績が残っています。また、2017年以降も少なくないブラウン管のリサイクル数が確認されていますので、4年間の出荷と処分の合計台数が一致したことについては、特別な意味はないと考えています。
ここで重要なのは、処分されたテレビの中でブラウン管の占める割合が高いということです。2005〜2008年の出荷台数は全体の20%だったブラウン管テレビが、2013〜2016年の処分台数では63%を占めています。
このことから、平均使用年数の低下には、薄型テレビよりもブラウン管の使用年数の方が大きく影響を与えていると言えそうです。ただし、年毎の処分数を確認すると、2016年については薄型テレビの処分数がブラウン管を超えていますので、ブラウン管処分数が平均使用年数の低下に大きく影響したとは言えません。
ブラウン管が主流であった頃も含めて、平均使用期間は9〜10年で推移していますので、他の時期とは異なる原因によってブラウン管が処分されたことが、2013〜2015年の平均使用年数を引き下げたと言えるでしょう。2016年については別の理由がありそうです。
・2013年〜2015年の平均使用年数の低下は、ブラウン管テレビの処分の影響が大きい。
・2016年については、処分台数の半数以上を薄型テレビが占めており、ブラウン管の影響とは言えない。
では、ブラウン管は、どのような理由によって処分されたのでしょうか。
ブラウン管が処分された理由
下表は、内閣府が提供している主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)を元にして、1992〜2023年までのカラーテレビの買い換え理由を集計したものです。
2005年頃から「故障」の占める割合が減少し、2010〜2015年までは50%を切っています。この時期は、「故障・劣化による寿命」によって処分されたテレビの割合は、低かったと言えます。
2013〜2015年の平均使用年数の低下理由は、「故障・劣化による寿命」ではなかった。
下表は、上記グラフから2013〜2016年の値を抜き出したものです。
故障 | 上位品目 | 住居変更 | その他 | |
2013年 | 33.1 | 31.3 | 5.9 | 29.7 |
2014年 | 38.7 | 21.1 | 11.3 | 28.9 |
2015年 | 39.7 | 20.9 | 8 | 31.4 |
2016年 | 57.4 | 15.5 | 6.4 | 20.7 |
リサイクル台数と同様に、ここでも2016年は例外の結果を示しています。故障率は57.4%で、半数以上が買い替え理由に「故障」を選んでいます。この要因については、以下のように考えています。
2016年の平均使用年数の低下は、2009〜2011年に液晶・プラズマテレビが大量に出荷されたことで、短期(5〜7年)で故障したテレビの総数が押し上げられたことによる影響。
詳細については、以下の調査ログを参照下さい。
また、2013〜2015年については、以下の理由から2016年ほど2009〜2011年の大量出荷の影響を受けていないと考えています。
・2013〜2015年の買い替え理由に占める「故障」率が50%を下回っている。
・2013〜2015年に処分比率が高かったブラウン管は、2009〜2011年には出荷されていない。
・2009〜2011年の出荷製品も1年未満の初期不良はメーカー保証を受けられるケースが大半。
・メーカー保証で修理されれば、買い替え対象にならない。
・初期故障期を過ぎると、摩耗故障期までの故障率は高くない。(バスタブ曲線)
このことから、2013〜2015年に平均使用年数が低下したのは、「故障・劣化による寿命」が要因ではないと言えます。
では、その要因とは何だったのでしょうか。
2013〜2015年の低下要因
2005年以降、「故障」の割合が減少しているのに対して、「上位品目」「その他」を理由とした買い換えが増加しています。特に2011〜2012年は、50%近くの割合で「その他」が理由として選ばれています。主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)は、前年4月から当年3月までが調査対象ですので、2010年4月〜2012年3月までに「その他」の理由でテレビを買い替えた消費者が多かったということになります。
この期間に起きた大きな出来事としては、地上デジタル放送(地デジ)への移行が挙げられます。地デジチューナーを搭載していないテレビから搭載しているテレビに買い替えたのであれば、買い替え理由の「故障」割合が減少したことも当然だと言えます。
ごく一部の機種を除けば、ブラウン管テレビには地デジチューナーが内蔵されていませんでした。軽量で消費電力も少ない薄型テレビの普及が進み、2005年頃からは薄型テレビが主流となりましたので、地デジ対応の為に、多くのブラウン管テレビが処分されたことは間違いないでしょう。
ただし、これだけでは2013〜2015年に平均使用年数が低下したことの説明にはなりません。地デジへの移行は、2011年の出来事だからです。
地デジへの移行は2011年。2013〜2015年の平均使用年数の低下には直接影響していない。
2003年12月に地デジが導入されてから2011年7月の完全移行までの期間、「故障」比率が低下したことの理由にはなりますが、2011年7月以降の影響は大きくないはずです。
だとすると、2011年7月以降に買い替えられたテレビは地デジチューナーを必要としていなかったと考えられます。
では、地デジへの移行以外に、どのような出来事が関係していたのでしょうか。
2011〜2015年に起きた出来事
まず、2011年7月以降も地デジチューナーを内蔵していないテレビで放送を視聴することは可能でした。(画面縦横比の違いで表示の問題はありますが)
そのうち、多くの世帯をカバーしていたのが、ケーブルテレビです。
総務省の2011年3月の発表によれば、契約者数ベースで2409万世帯が、デジアナ変換によって地デジチューナーを内蔵していない機器もテレビ放送の受信が可能だと説明しています。
NHKが公表している受信料・受信契約数に関するデータ(外部リンク)によれば、2011年7月時点の契約数は約4000万世帯ですので、半数以上がカバーされることとなります。もちろん、実際に2409万世帯で利用されたということではなく、デジアナ変換に対応するケーブルテレビ会社の契約総数が2409万世帯だったということです。
同様の視聴は、地デジチューナーとの接続やチューナーを内蔵しているHDDレコーダーとの接続等によっても可能でしたので、2409万世帯よりも多くの世帯で買い替えは必須ではありませんでした。
デジアナ変換は2015年4月に提供を終了しましたので、2013〜2015年の主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)結果が、2012年4月〜2015年3月までの調査結果を元にしていることを考えれば、2011年までに買い替えが完了しなかった理由のひとつとして考えられます。
ただし、デジアナ変換の終了がテレビ買い替えの主な理由であるならば、2015年の調査結果が最も低い値となりそうですがそうはなっていませんし、2016年も低下が続いていることを考えると、他にも理由はありそうです。
2015年4月のデジアナ変換の終了は、2013〜2015年までの平均使用年数の低下に影響している可能性はあるが、2016年の低下には影響していないと考えられる。
HDMI端子の必要性
データが示しているように、地デジへの移行が完了し、デジアナ変換が終了した後もブラウン管の用途はありました。ゲーム機に接続されていたブラウン管テレビです。
任天堂は、Wiiの後継機であるWiiUの国内販売を2012年12月に開始しました。公表している販売実績数量(外部リンク)によると2016年までに266万台のWiiUが国内で販売されています。
ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)は、PS3 の後継機であるPS4の国内販売を2014年2月から開始しました。公式サイトでは国内販売数を見つけることができませんでしたが、複数のサイトで公開されている情報から考えれば、2016年までに200万台以上のPS4が国内で販売されたと考えられます。
WiiUとPS4に共通するのは、ビデオ出力にHDMI端子が採用されたことです。WiiUでは別売りのケーブルで接続可能でしたが、PS4にはHDMI端子以外の接続方法は用意されていませんでした。
Q:【Wii U】HDMI端子がついていないテレビで遊ぶことはできますか?
A:「Wii専用AVケーブル」(別売)での接続も可能です。ただし、「Wii専用AVケーブル」で接続した場合 は、Wii UソフトでもSD画質になります。
任天堂 Q&A(よくあるご質問)
https://support.nintendo.co.jp/app/answers/detail/a_id/32419
450万台以上のゲーム機が国内で購入されたことを考えると、ブラウン管テレビ、特にゲーム専用機として使用されていたブラウン管テレビは、ゲーム機の購入を機に処分された可能性が高いと考えられます。
2012年以降に発売されたゲーム機にHDMI端子が搭載されたことが、ブラウン管テレビを処分するキッカケになったと考えられる。
関連する出来事
更に、2013〜2015年までの出来事の中で、テレビの買い替えを後押しした要因として、2014年4月の消費増税も挙げられます。消費税が5%から8%へと増税される前に、駆け込みの買い替え需要があったと考えられます。
以下は、平均使用年数を低下させたと考えられる要因の一覧です。
2009〜2011年 | ー | 液晶・プラズマテレビの大量出荷 |
2012年 | 12月 | WiiUの発売開始 |
2014年 | 2月 | PS4の発売開始 |
2014年 | 4月 | 消費税増税 |
2015年 | 4月 | デジアナ変換終了 |
まとめ
これまでの内容から2013〜2015年の平均使用年数が急激に低下した主な要因は、「故障・劣化による寿命」を迎えたテレビの急増ではないと考えられます。
2016年についても、テレビの「故障・劣化による寿命」が短くなったのではなく、2009〜2011年に液晶・プラズマテレビが大量に出荷されたことによって、短期で故障したテレビの総数が押し上げられたのだと考えられます。
また、「故障・劣化以外の寿命」のうち、デジアナ変換が終了したこと、HDMI端子を搭載したゲーム機が普及したこと、消費税の増税による影響が大きいと考えられます。
・2013〜2016年の平均使用年数の低下は、故障率の上昇によるものではない。
・2013〜2015年の平均使用年数の低下は、デジアナ変換の終了、HDMI端子搭載のゲーム機普及、消費増税の影響が大きいと考えられる。
・2016年の平均使用年数の低下は、2009〜2011年に大量にテレビが出荷されたことで、短期(5〜7年)で故障したテレビの総数が押し上げられたことによる影響が大きいと考えられる。