チューナーレスの賞味期限(インフラ課題)

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「ネットに接続できるというだけでスマートフォンやパソコンから受信料をいただくことは、現時点では考えていない」とするNHK会長の発言の背景には、インフラと海外展開に関する課題があるのではないかと考えている。

まずは、インフラ課題についてだ。

同時接続の集中

現時点では、同時接続が大量に発生した場合の課題を解決できていないはずだ。

どんなに大手の企業が提供するサービスであっても、想定を超えるアクセスが集中すればWebサ―ビスは正常に機能しなくなる。アーティストのライブチケット販売、限定商品の販売やセール、年末年始や夏休みの宿や交通機関の予約。多くの人が無意味に時間を奪われる瞬間を経験しているに違いない。そういったケースなら、「アクセスが集中しています」のメッセージ表示でやり過ごすことも許されるのかも知れないが、同じようなことがNHKの同時配信で起きた場合はどうだろうか。

同時配信を受信料契約の対象とするならば、アクセスが増加しても安定した放送を提供する責任が生じる。それが出来ていない状態で、インターネット配信に対する受信料を受け取るというのは難しいのではないか。

同時配信では、見逃し配信のように再生タイミングが分散されない。多くの人のアクセスが同時配信用データに集中することによって、配信処理は影響を受ける。動画が保存されているディスクやキャッシュへのアクセス、配信システムの処理時間も影響を受けるだろうが、ネットワークへの影響が最も大きいであろうことは容易に想像できる。動画データは文字データとは異なり、ユーザ当たりのデータ通信量が桁違いに大きいのだから。

サーバ処理能力やネットワークは、想定される利用者数をカバー可能な、余裕を持った設計が必要となる。かといって、過剰なシステム増強をすれば、遊休サーバやトラフィックがスカスカのネットワークの為に高額な費用を毎年支払うこととなってしまう。

アマゾンのAWSのようにリソースが不足すれば自動的に追加されるサービスの利用が前提ならば、無駄は省くことができる。だが、リソース利用量が増えるほどコストも積み上がっていくのだ。視聴者増によってより多くの広告収入を期待できる民放とは違い、同時配信の視聴者が増えてもNHKの収入源である受信料は増えない。

どのような方法で解決するにしろ、番組の人気が出るほどに経費が増えていくという構造は、NHKにとって大きな課題となるということだ。明らかにNHKのビジネスモデルとは相性が悪い。

同時配信の利用者数

NHKが2023年4月に発表した「2022年度 第4四半期業務報告書」によると、同時配信を実施しているNHKプラスの視聴UB数は151.5万ユーザ(毎週の四半期平均)だったとされている。UB(Unique Browsers)とは、Webサイトに訪れたブラウザの接続数だ。

1週間のアクセス数平均であることを考えれば、1日当たりでは20万程度。時間当たりのアクセス数や見逃し配信の利用者が含まれていることを考えれば、同時配信で大量アクセスを経験しているとは言えない状況だ。

例えば、YoutubeのLive配信。2023年6月時点の最高同時接続数は614万ユーザ、2022/12/10に行われたワールドカップのブラジル対クロアチア戦だとされている。そのユーザの全てが満足する視聴ができたとは限らない。もちろん、不具合なく配信されたのかも知れないが、それ以上の同時接続数をYoutubeですら経験したことがないということは言える。

NHKの受信契約数は4400万件を超えている。15%程度の世帯が同時配信を視聴すれば、Youtubeの記録を超える同時接続数となる。

スマホの普及率を考えれば、1世帯で複数の接続が発生することも考えられるので、余裕をもったシステム設計となるとなかなかの規模となることは間違いない。

収益の比較

収益ベースの比較をしてみよう。Alphabet社が2022年にYoutubeで得た広告収益は292.43億ドル(外部リンク:P28)だ。1ドル140円換算では約4兆円となる。

一方のNHKは、2022年度に得た受信料収入が6725億円(外部リンク)と約1/6の規模だ。

もちろん、月間アクティブユーザが25億ユーザを超える(外部リンク)Youtubeと同程度のシステム規模が必要とまでは言わないが、放送の片手間でやろうという程度の規模では済まないはずだ。

Youtubeとは違い、番組制作、設備といった放送のための費用が必要であるし、インターネット配信が放送を補完するためのサービスであることを考えれば、潤沢な予算を使えるわけでもない。

安定した配信の為に受信料の大幅値上げが必要だと主張しても、国民の理解を得ることは難しいだろう。そうなれば、放送法の改正も困難なものとなることは避けられない。

更に、NHKは海外での同時配信についても検討する必要がある。

つづく

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