日本人のテレビ離れは進んでいない?

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日本人のテレビ離れが進んでいると言われていますが、実際は、どの程度進んでいるのでしょうか。

疑問に思い、NHKや総務省が公開しているデータから視聴時間を確認してみたのですが、それぞれのデータに大きな差が生じていることが確認できました。

本記事では、日本人が1日にテレビ視聴に費やしている時間を調べる際、どのデータを使用すべきかという内容について解説していきます。

NHKの国民生活時間調査

NHKでは、定期的に国民生活時間調査という名称の調査を実施しており、結果が公開されています。

調査実施は5年毎で、2023年時点の最新データは2020年の調査結果です。

以下のグラフは、国民生活時間調査のうち、1995年〜2020年のテレビ視聴時間を集計したものです。

週末に視聴時間が増加する傾向が認められますが、全体を通して180分から260分(3時間から4時間20分)の間で推移しているという結果が得られています。

確かに視聴時間の減少傾向は確認できますが、テレビ離れと呼ばれるほどの大きな変化は起きていないようにも見えます。

インターネットやスマートフォンに国民の可処分時間が奪われていく中、テレビ視聴時間の減少は本当にこの程度なのでしょうか。

NHKが実施している国民生活時間調査では、一日の平均テレビ視聴時間が3時間から4時間半の間を推移しているという結果が得られている。

総務省の社会生活基本調査

同様の調査は、総務省の社会生活基本調査でも実施されていて、結果が公開されています。こちらも5年毎に実施されており、2023年時点の最新データは2021年の調査結果です。

以下のグラフは、「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やされる1日の平均時間を集計したものです。

NHKの調査結果と同様に、週末に費やされる時間に増加傾向にあることと、減少傾向は確認できますが、大きく異なる点があります。

NHKの調査ではテレビ視聴時間が180分から260分の間で推移していましたが、総務省の調査では125分から200分の間で推移しており、両者の調査結果には約1時間の差があります。

さらに、NHKの調査結果ではテレビ視聴のみが対象ですが、総務省の調査結果にはテレビに加えて、ラジオ、新聞、雑誌が含まれており、本来ならば平均時間はNHKの調査結果よりも長くなるはずです。

総務省が実施している社会生活基本調査では、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌に費やす平均時間は2時間から3時間半の間を推移しており、NHKが公開する平均テレビ視聴時間よりも約1時間少ない。

調査結果の比較

以下のグラフは、NHKと総務省の資料を平日どうしで比較したものです。

総務省の調査ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌が個別に集計されていないので、NHKの調査結果の「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌・マンガ・本」の合計時間を使用しました。

ラジオ、新聞、雑誌が加えられたことで、約1時間だった差は約2時間まで広がっています。

調査結果にこれだけの差があると、調査方法に明らかな違いがあると考えざるを得ません。

テレビ・ラジオ・新聞・雑誌に費やす平均時間は、NHKの調査結果の方が総務省の調査結果よりも約2時間多い。

調査サンプル数の比較

調査方法の違いを明らかにするため、まずは回答数(サンプル数)の比較をしてみました。

公開元実施年調査名称サンプル数
NHK2020年国民生活時間調査4,143
総務省2021年社会生活基本調査315,956

NHKの約4千に対して、総務省は31万以上のサンプルを得ていますので、総務省の調査結果の方が信頼性が高いと言えますが、NHKの4千も少ないサンプル数ではありません。

サンプル数が調査結果に大きな差を生じさせた原因だと片付けてしまうわけにはいかなそうです。

サンプル数は、総務省の方が多い。ただし、NHKも4千以上のサンプルを得ており、調査結果の差異を生じさせた原因とは考えづらい。

回答者の比較

NHKと総務省の調査回答者に偏りがあれば、結果にも大きな影響が出るはずです。そこで、回答者の属性を比較してみました。

なお、対象者については、双方とも無作為に選定されたことが記されているので、選定方法による違いはない前提で考えます。

以下の表は、回答者の比率を男女別に集計したものです。

どちらもほぼ同様の比率を示しており、調査結果に差異が生じた原因は、偏った男女比の回答によるものではないと言えそうです。

公開元名称
NHK国民生活時間調査47.50%52.50%
総務省社会生活基本調査47.54%52.46%

下の表は、回答者を年代別に集計したものです。

多少の比率の差異は確認できますが、回答結果を左右させるほどの偏りは確認できません。調査結果に差異が生じた原因は、偏った年齢層の回答によるものではないと言えそうです。

公開元名称10代20代30代40代50代60代70歳以上
NHK国民生活時間調査8.47%6.95%10.52%15.57%17.19%17.64%23.65%
総務省社会生活基本調査5.09%7.47%10.51%15.70%15.90%17.38%27.94%

NHKと総務省の調査の回答者について、男女比や年齢層による比率の偏りは見られない。

回答・集計方法の違い

双方の回答用紙には、調査対象日の24時間の帯が用意されており、「睡眠」や「食事」のように、どのような行動を取っていたかを記入する方法が取られています。その点では一致していますが、それらの回答・集計方法において、NHKと総務省では大きく異なることが分かりました。

以下のサイトには、NHKの生活時間調査の行動分類について記載されています。このサイトの記載内容が、NHKと総務省の調査結果に差異が生まれる理由です。

NHKは、生活時間調査の特徴を以下のように記しています。

NHKの生活時間調査の特徴のひとつとして、同時に複数の行動をしている場合には、その全てを記入してもらっている。

NHK 生活時間調査 同時行動について 

また、その集計方法については、以下のように記しています。

小分類の行動の集計では、同一時間帯に行われている複数の行動のそれぞれを、独立した行動として集計する。

NHK 生活時間調査 同時行動について

つまり、「テレビ」を観ながら、「炊事・掃除・洗濯」をしたり、「食事」をしたような場合、どちらの時間も行動した時間として集計されるということです。

実際に調査結果として公開されている各種行動の平均時間を合計してみると、総務省の方は24時間に収まっているのに対して、NHKの方は24時間を大きく上回っていることが確認できました。

また、NHKの調査では「同時行動を認めない行動」という定義がされています。

「会話・交際」「睡眠」「休息」については、「他の行動と同時に行われた場合は他の行動単独で行われているとみなす」と定義し、これらの行動が他の行動と同時に記入されている場合は、集計段階で削除した。

NHK 生活時間調査 同時行動について

これは、「会話・交際」「睡眠」「休息」している際に「テレビ」が記入されていた場合、「テレビ」のみが集計されるということです。

NHKと総務省の調査結果が異なるのは、回答・集計方法に違いがあるから。NHKは、複数の行動を同時に実施している場合、どちらも集計しており、総務省は同時行動を集計していない。

調査結果の使い分け

上記の集計方法の違いを考慮すると、NHKと総務省の調査結果を参照する際には、使い分けが必要となりそうです。

テレビの稼働時間を確認するような場合、NHKの調査結果は適していると言えます。例えば、テレビの稼働時間と故障率の関係を調べる場合や、テレビの平均消費電力を算出する場合などです。

一方、総務省の調査結果は、一日のうち、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌に集中している平均時間を知りたい場合に利用可能だと言えます。例えば、人々の可処分時間のどれくらいの割合が「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」に費やされているかを調べるような場合です。個別分類されて集計されていないので、テレビとラジオの占める割合をそれぞれ調べたいといった場合には、適切ではないと言えます。

特にテレビに限定した場合、NHKの調査結果には「テレビ(専念)」という分類もされており、テレビに集中している平均時間を知ることが可能です。テレビの広告効果を考える際に、視聴時間の平均値を知りたいといった場合、こちらの値が適切と言えるかも知れません。

以下のグラフは、NHK調査のテレビ(専念)時間と総務省調査のテレビ・ラジオ・新聞・雑誌時間を集計したものです。こちらの集計では、ながら観を含めたテレビ時間とは異なり、テレビ時間がテレビ・ラジオ・新聞・雑誌時間を上回るということも起きていませんでした。

このことからも、NHKと総務省の調査結果におけるテレビ視聴時間に矛盾は生じないと言えます。

なお、NHKの調査結果において、ラジオ、新聞、雑誌についても個別分類されていますが、これらには「専念」という分類が用意されておらず、「ながら」の時間が含まれていますので、テレビと同様の調査に利用する際には、注意が必要です。

NHKの調査結果は、ながら観を含めたテレビが使用された平均的な時間。テレビに専念している平均時間を参照することも可能。

総務省の調査結果は、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌に集中している平均的な時間。

結論

2023年5月時点の最新統計情報を利用した場合、一日の平均テレビ視聴時間は下表の通りです。

調査年公開元名称項目平均時間(分)
平日土曜日日曜日
2020NHK国民生活時間調査テレビ(ながら観を含む)181215218
2020NHK国民生活時間調査テレビ(専念)108138145
2021総務省社会生活基本調査テレビ・ラジオ・新聞・雑誌123147164

本サイトでは、テレビ寿命を推測する際などに利用する、年間を通じた平均視聴時間が必要です。上記データを利用して、平均視聴時間を算出してみようと思います。

上記データのうち、「テレビ(ながら観を含む)」は、テレビが動作している時間ですので、使用するデータとして適切です。また、祝日については日曜日と同様の視聴時間であると考えられます。

これらから、以下の式で算出される時間を年間を通じた平均視聴時間としたいと思います。

(平日 X 5日+土曜日+日曜日) / 7日 + (祝日数/365日) X (日曜日ー平日)= 年間を通じた平均視聴時間

上記計算の結果、192分と算出されました。本サイトでは、年間を通じた1日の平均テレビ視聴時間に192分(3時間12分)を使用します。

結論

日本人の年間を通じた1日の平均テレビ視聴時間は192分(3時間12分)

2023年5月時点の最新統計情報に基づく、「ながら観」を含んだ視聴時間

本記事の執筆時、総務省の社会生活基本調査のうち、調査票Aの集計結果を参照していましたが、その後、調査票Bでは同時行動についても回答可能であることが確認できました。調査票Bの集計結果は確認予定ですが、その結果、本記事の内容に変更が加わる可能性があることをご承知おきください。

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