保証と寿命の微妙な関係

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保証期間の決定要因

電化製品の設計寿命について考える際、その製品の保証期間はひとつの目安になりえると考えている。

保証期間内に不具合が発生すれば、メーカーは修理費用を負担しなければならないし、修理が多発すれば消費者の品質に対する印象や評判も悪化し、売上に影響する。コスト的にもイメージ的にも保証期間内の不具合は、メーカーとしても出来るだけ起こしたくないはずだ。

保証期間を短くすれば、その問題は解決するが、新たな問題が発生する。

長期保証は品質に対するメーカーの自信の表れとも言えるので、消費者の購入動機になりえる。特に高額商品である場合、買い替えリスクを考えれば保証期間は重視される。リスクを軽減するために、家電量販店等が提供する延長保証に追加費用を払って加入することもあるほどだ。メーカーとしては、競合メーカーよりも保証期間を短く設定することは避けたいだろうし、品質に自信があるならば、長期に設定して他メーカー製品との差別化を図ることも考えるだろう。

これらを考えると、メーカーの設定する保証期間というのは最低限にすべきと考えると同時に、可能な限り長く設定したいという思いとの葛藤の末に決定された期間だといえるだろう。

だとすると、その期間が設計寿命と結びつかない訳がないのだ。

テレビの保証期間

市販されている液晶テレビの大半は、1年間を保証期間として売られている。

家庭での一般的な利用において、1年以内に故障が頻発したという話は聞かない。長い保証期間が設定されていないことには、何らかの理由があるはずだ。

高温多湿の室内で使用した場合、一般的な利用よりも故障発生確率は高まる。絶縁体の性能劣化によって発生するトラッキング等を理由とした、電化製品である以上は避けられないものだ。

24時間電源を入れ続けて使用した場合も、一般的な利用よりも故障が発生する確率は高まる。動作を続けることで、内部の温度が高まり部品の故障率も高まるのだ。

説明書に書かれている、不安定な場所に設置するな、衝撃を与えるな、通風を妨げるな、埃や油煙が多い場所で使用するな、といった注意書きは、守らなければすべてが寿命に影響するものだ。

想像してみて欲しい。

油ギトギトの料理が美味いと評判の中華料理店。年中無休、24時間営業で料理を提供し続けている。壁ギリギリに設置されたテレビが、たっぷりと油を含んだ煙に包まれながら、麺を茹でる湯気に画面を曇らせながら、途切れることなく放送を流し続けている。

料理の到着を待ちどうしそうにしている客が、ふとテレビに目を向ける。そして、予言者でも電気屋でもないその客ですら思うのだ。あのテレビが壊れるのは、そう遠くない未来だろうと。

だが、そのテレビが故障しても、メーカーの保証要件さえ満たしていれば、保証期間中は無償修理を受けられる。そこまで極端な環境でなくとも、高温多湿な場所での利用や、間取りの関係で通気が悪くなってしまっている場合などは多々あるはずだ。

1年間が保証期間なら、24時間、365日、時間にすると8760時間の動作をメーカーは保証していることとなる。そこまでなら耐えられると踏んでいるということだ。

保証期間が1年よりも長く設定されないのは、こういった過酷な使われ方を考慮に入れている可能性がある。とはいえ、8760時間の連続使用の保証は、一般消費者には充分なものだ。

日本人がテレビを利用する平均時間は、3時間12分であることは、以前の記事に記した。

毎日3時間12分づつテレビを観続けたとすると、8760時間を迎えるのは7.5年後だ。過酷な環境でなく、連続運転をさせなければ、寿命は更に延びるはずだ。とはいえ、平均視聴時間は、あくまで平均でしかない。実際にはもっと長い人もいれば、逆に短い人もいる。

長時間の連続運転が求められる液晶ディスプレイはないだろうかと考え、PCモニターの存在に気づいた。

PCモニターの保証期間

テレビの電源が切られることなく1日中動作させ続けられることは稀なケースかもしれない。だが、常時監視が必要なシステムや監視映像用のPCモニターならば、24時間の連続運転は特殊ケースではない。

だとすれば、PCモニターのメーカーは、そういった使用方法があることも踏まえた上で保証期間を設定しているはずだ。

テレビと同程度の保証期間か、より短い期間が設定されていてもおかしくなさそうなものだが、実際は違った。

EIZO株式会社の製品については、一部の例外もあるが、モニター製品の5年保証が謳われている。

株式会社アイ・オー・データ機器でも、一部機種は対象外だが、モニター製品の保証期間は5年間だ。

シャープNECディスプレイソリューションズ株式会社でも、対象となるモニター製品の保証期間を5年間としていることが分かった。

同じ液晶ディスプレイを使用しているにもかかわらず、テレビの1年間に対して5年間というのは随分大きな開きだといえる。

テレビとPCモニターを比較した場合、主な違いはチューナーの有無だ。もしもチューナーの連続使用や長期間の使用に不安があるからテレビの保証期間が短いのだとすれば、その他の共通する部品、例えばLEDバックライトは、保証期間が長いPCモニターを元に設計寿命を割り出せるかも知れない。

4万時間の壁

24時間連続動作を5年間続けた場合、その合計は43800時間となる。これは、電気用品安全法の絶縁体試験条件である4万時間を超えることとなる。

これが本当ならば、「電気用品の設計寿命は、電気用品安全法との関係で4万時間以上にすることは難しい」とした以前の調査結果を覆すこととなるが、果たしてそうなのだろうか。

調査結果が覆らないことは、すぐに判明した。上記3メーカーの保証には、共通して以下のような但し書きがされているのだ。

使用時間が3万時間を超えた場合は、保証の対象外

5年は保証するが、使用時間が3万時間を超えれば対象外となる。これならば、設計寿命を4万時間以上とすることが難しいという仮説は、正しいと言える。

ところがである。

調査を続けるうちに新たな事実が判明したのだ。

驚異の無制限

フィリップスというメーカーが、PCモニターの5年間保証を謳っている。

5年間という期間だけを見れば、EIZO、アイ・オー・データ、シャープNECでも謳われている内容なので驚きには値しない。だが、フィリップスの保証内容は、使用時間にも制限を設けないというものなのだ。

フィリップスの公式サイトには、以下のように記されている。

フィリップスディスプレイは安心の全機種5年間フル保証

フィリップスは全機種において、パネル・バックライト・本体(部品や電源)に5年間の製品保証をつけています。

※修理にかかる送料・検査技術料・キャンセル料のお客様負担はありません。

フィリップス公式サイト
https://www.philips.co.jp/c-m-so/monitors

まず、事前に言っておかなければならないのは、EIZO、アイ・オー・データ、シャープNECの保証も競合他社と比較すれば、充分なものだ。

テレビの保証期間は1年間だし、PCモニターを製造するメーカーやPCを販売するメーカーの保証内容を10社以上確認してみたが、多くは1〜3年に設定されていた。

そういう意味では、一部のモニターが対象外であったり、3万時間の使用時間の制限が設けられているにしろ、5年間という保証期間は圧倒的なのだ。

それらを上回る保証内容を提供しているフィリップスは、PCモニター界において特異な存在だと言えるだろう。

これは、フィリップスという会社について、調べる必要がありそうだと感じ、追加調査を実施した。

詳細は、以下の調査ログに残してある。

なお、本調査においては、無償のメーカー保証のみを比較対象とした。その理由について以下に記す。

実際には、メーカーや家電量販店が提供する有償の延長保証には5年や6年といった長期保証が提供されているのも見つかるし、液晶テレビも含まれる場合もある。だが、有償であることからも保険の考え方に近いと思われ、一定数の修理の発生は想定されているはずだ。だとすると、設計寿命の目安とするには根拠に乏しいこととなる。これらから、有償の延長保証は比較対象外とした。

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