液晶テレビの寿命は、一般的に8年〜10年と言われています。
製造メーカーや製品、使われ方によって寿命も異なる筈なのに、共通して同じ年数が使用されているのはナゼでしょう。
本記事は、他の記事の内容を補完する目的で執筆しています。液晶テレビの寿命が8年〜10年であるという内容ではありませんので、誤解なきようお願いします。
液晶テレビの寿命とは、液晶テレビが購入されてから廃棄されるまでの期間です。
寿命には、以下の2種類が混在していると考えられます。
故障・劣化による寿命
故障・劣化以外の寿命
まず、これら寿命の違いについて解説した後、8年〜10年が寿命と言われる根拠を推測します。
故障・劣化による寿命
通常、液晶テレビは経年劣化による影響で廃棄されます。頻繁にフリーズしたり、電源が入らなくなったり、画面が暗くなったり、変色したり、といった様々な問題が起こり得ます。
うっかり傷をつけたり、画面が割れたり、水没させてしまったりといったことが原因の故障によっても、家電製品は廃棄されることがあります。製品自体の寿命ではありませんが、必ず一定数は発生するケースですので、寿命を考える上で除外できない対象です。
多くの場合、これらの問題は修理によって解決可能です。
劣化による故障がメーカー保証期間に発生した場合は、修理に出されるケースが多いでしょう。この場合、延命されるので寿命を迎えた製品としてはカウントされない筈です。
損傷による故障も、販売店の長期保証や損害保険の条件を満たしていれば、費用負担はありませんので修理に出されるはずです。修理されれば継続使用が可能となりますので、製品の平均寿命は延びることとなります。
一方で、修理費用が発生する場合、多くの消費者は買い替えを検討するでしょう。高額な費用を支払って修理したからといって、新品以上の延命が期待できるわけではありませんし、進化した機能が搭載された製品を修理費用と大差ない金額で購入できるならば、修理を選ぶ理由はありません。
このように、「故障・劣化による寿命」は修理費用の発生有無によって変化すると考えられます。
「故障・劣化による寿命」には、修理費用の発生有無が影響する。
故障・劣化以外の寿命
「故障・劣化以外の寿命」の代表的なものとして、機能・性能不足が挙げられます。
機能・性能不足は修理では解消されません。備えられていない機能・性能が必要となった場合、他の機器を導入することで補完するか、その機能を備えたテレビに買い換えるしか方法は有りません。
例えば、2011年の地上アナログ放送から地上デジタル放送への移行です。
放送受信に必要となる地デジチューナーという機能不足が発生することとなりました。地デジチューナーを搭載したHDDレコーダーやデジアナ変換機によって延命を図ることも可能でしたが、実際には多くのテレビが買い替えられました。
HDMI端子やBluetoothへの対応、解像度・視野角・応答速度、スマートテレビへの対応なども同様に当てはまりますし、引っ越しなどの理由で必要とされなくなってしまう場合もあります。
テレビ自体は動作しても、求められる役割を果たせないことで寿命を迎えたわけです。
このように、「故障・劣化以外の寿命」は利用者の要望に左右され、製品自体の寿命とは異なります。
「故障・劣化以外の寿命」は、製品自体の寿命ではない。
部品の保有期間
テレビは、故障しても修理可能ですが、修理に必要な部品がいつまでも供給される訳では有りません。部品がなければ修理もできませんので、延命できません。
カラーテレビは、製造終了後8年間は修理に必要な部品を保有するよう、家電公取協で「補修用性能部品表示対象品目と保有期間」が定められています。
つまり、修理さえすれば最低でも8年間は使用し続けることが可能ということです。上記に挙げた2種類の寿命のうち、「故障・劣化による寿命」を迎えることを8年間は避けられます。
これをもって寿命が8年以上という根拠にしたいところですが、それよりも短くなる可能性があります。先に述べたように「故障・劣化による寿命」には修理費用の発生有無が影響するからです。
テレビのメーカー保証は購入後1年が一般的ですから、購入後2年〜8年に故障が多発すれば、寿命は8年よりも短くなるはずです。
そこで、買い替え前の使用年数を実際の統計値から確認してみることにしました。
統計値の確認
以下のグラフは、内閣府が提供している1992年から2023年までの主要耐久消費財の買替え状況の推移(外部リンク)を元にして、買い替え前のテレビの平均使用年数の推移を示したものです。
6.3年から10.7年というバラツキはありますが、1992年から2023年までの32年間の平均値は9.25年ですので、「部品の保有期間」である8年よりも長いと言えます。
2013年〜2016年の期間は8年を下回っていますが、技術革新によって品質が向上し続けていることを考えると、「故障・劣化による寿命」によって上記のような急落は起きないはずです。また、その理由が「故障・劣化による寿命」でないならば、テレビの寿命を「部品の保有期間」である8年以上とすることに違和感はありません。
2013年〜2016年に急落したのは、「故障・劣化以外の寿命」に該当する地上デジタル放送への移行とは別に、いくつかの要素が影響していると考えられます。地上デジタル放送に移行した2011年の2年後に急落が発生していることからも、このことは説明可能です。詳細については以下の記事で解説します。
これらから、テレビの寿命を8年以上とする根拠は以下のようにいうことが可能です。
テレビの製造終了後8年間は修理に必要な部品を入手できるので、最低でも8年間は使用可能。
統計からも平均使用年数は8年以上であることが判明している。
一方、上限とされている10年についてはどうでしょうか。
過去の統計平均値は9.25年ですので、これを使用するなら上限は10年ではなく9年になるはずです。
また、以下のグラフは、JEITAの公開している「民生用電子機器国内出荷統計」を元にして、テレビの出荷実績を示したものです。
2002年頃から薄型(液晶・プラズマ)テレビの出荷台数が増加し始めており、2005年からは過半数を占めていることが分かります。
「主要耐久消費財の買替え状況の推移」には、ブラウン管と薄型テレビといった品目別の集計結果がありませんので、テレビの平均使用年数を確認する場合、ブラウン管テレビの数値による影響を避ける必要がありそうです。
買い替え前のテレビの平均使用年数は、1992年から2023年の32年間の平均値が9.25年でした。
薄型テレビの出荷実績が増え始めた2002年から2023年の22年間の平均値は9.23年。
薄型テレビが過半数を占めるようになった2005年から2023年の19年間の平均値は9.13年。
ブラウン管の出荷実績が確認されなくなった2010年から2023年の14年間の平均値は8.93年。
どの期間の平均値を取ってみても上限は9年になるはずです。
仮に2021年以降の統計値のみを参照して上限を10年とするのであれば、2013年〜2016年の上限は6〜8年以下にすべきです。その場合、特定期間に製造された製品だけ寿命が短かったことになってしまいますが、そのような事実は確認されていません。
短期間の統計値のみを根拠とした場合、技術進歩によって発生する機能・性能不足を理由とした「故障以外の寿命」が考慮されないこととなります。そのような種類の「故障以外の寿命」は、定期的に発生しうるので、長期的な値の変化から推測すべきだと考えています。
これらから、10年という寿命は統計からの推測値ではないと判断しました。
テレビの寿命の上限を10年とする根拠は、統計からの推測値ではない。
統計からの推測値でない場合でも、理論上の製品寿命が当てはまるならば、上限を10年間とすることは可能です。そこで、理論上の製品寿命を確認してみました。
理論上の製品寿命
液晶パネルは裏側からバックライトを照射して映像を表示しており、このバックライトの使用が6万時間を超える頃には明るさが半減し、画面が暗くなるため寿命を迎えると言われています。
しかし、この6万時間がバックライトにLEDを使用している液晶テレビには当てはまらないということは、以下の記事で解説しました。
更に、当サイトでは、液晶ディスプレイに使用されるLEDバックライトの設計寿命を「3万〜4万8400時間」としていますので、これを元に10年という上限が導き出せるかを確認してみたいと思います。
設計寿命については、以下の記事を参照ください。
バックライト以外の部品に不具合が生じない前提ですし、適切な環境下で使用されなければトラブルが発生する可能性も高まりますので、寿命を測る基準として適切ではないかもしれませんが、テレビの寿命を推測する上で一般的に考慮される項目ですので、寿命10年の根拠となり得るかを確認しておきたいと思います。
では、仮にバックライトの寿命を3万時間とした場合、10年間という寿命は導き出されるでしょうか。
以下の表は、1日当たりの視聴時間によって、LEDバックパネルの寿命がどのように変化するかを示しています。仮に毎日1時間しか視聴しなければ82.2年間、毎日8時間視聴しても10.3年間は使用できる計算です。
視聴時間/日 | 寿命年数 |
1時間 | 82.2年 |
2時間 | 41.1年 |
3時間 | 27.4年 |
4時間 | 20.5年 |
5時間 | 16.4年 |
8時間 | 10.3年 |
10時間 | 8.2年 |
12時間 | 6.8年 |
16時間 | 5.1年 |
24時間 | 3.4年 |
毎日8時間という値が当てはまるのであれば平均寿命を10年間と言うことも可能です。
しかし、以下の記事の通り、日本人の平均テレビ視聴時間は1日に3時間12分です。この視聴時間であれば20年以上使用できる計算となりますので、平均寿命を10年間とする根拠にはなりません。
これらから、10年という寿命は、バックパネルの寿命を根拠とした推測値でもないと言えます。
まとめ
テレビの寿命が8〜10年と言われる根拠について確認した結果は以下の通りです。
・下限である8年には根拠があるといえる。テレビの製造終了後8年間は修理に必要な部品を入手できるので、最低でも8年間は使用可能。統計からも平均使用年数は8年以上であることが判明している。
・上限である10年は根拠に乏しい。統計データから得られる上限は約9年。理論上の設計寿命も10年とする根拠にはならない。
8〜10年だと言われるテレビの寿命について、下限である8年には根拠があるといえるが、上限である10年は根拠に乏しく、明確な根拠に基づいていないと考えられる。